「3D CADはあるのに、結局は図面PDFと画面共有で打ち合わせ」
「現場に行ってみたら“話が違う”が起きて、手戻りが増える」
「海外拠点や協力会社とのやり取りに、時間もコストもかかる」
こんな悩みを抱える製造業は少なくありません。そこで注目されているのが、メタバース(複数人で共有できる3D空間)を使った業務改善です。
ポイントは、メタバースを“流行りの技術”として導入するのではなく、設計・製造・営業・サービス・教育をつなぐ「共通の場」として使うこと。3Dデータを中心に同じ空間で会話できるため、認識ずれを減らし、伝達のムダを減らし、教育にも活かしやすくなります。
この記事では、製造業の「あるある課題」から出発し、メタバースで何をどう解決できるのかを、ユースケース・進め方・つまずきポイントまで含めて分かりやすく整理します。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の企業・環境・状況への適用や効果を保証するものではありません。内容の利用は読者ご自身の判断と責任にてお願いいたします。参考として合わせてださい。
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監修・執筆:UEL株式会社編集部
UEL株式会社のTechデザイン企画部と現場に精通した社内有識者が監修しています。
目次
こんな課題はありませんか?製造業現場の「あるある」から考える
図面や3Dモデルが設計だけのものになっている
多くの会社で3D CADは導入済みでも、実務ではこんな状態になりがちです。
- 設計部門:3Dモデルを作っている
- 他部門(製造・営業・品質・サービス):結局見るのは図面PDFやスクショ
- 打ち合わせ:画面共有で「ここです」「こっちです」と説明が長引く
つまり、3Dデータが「作った人だけが使う資産」になってしまう状態です。
この状態だと何が起きるかというと、
- 設計意図が伝わりにくい
- ちょっとした寸法感・空間感が共有できない
- 「なんとなくOK」で進み、後で手戻りが出る
といった問題が起きやすくなります。
製造・現場・営業との認識ずれや手戻りが多い
製造業の手戻りは、技術的な難しさだけでなく、認識ずれから生まれることがよくあります。
よくあるパターン例:
- 設計:問題ないと思っていたが、現場では工具が入らない
- 生産技術:レイアウト上は置けるが、通路が狭くて運用できない
- 営業:顧客への説明が曖昧で、仕様変更が後から発生
- サービス:保守がしづらい構造で、現場対応コストが増える
現場で気づく前に、関係者が同じものを同じように見て、早めに気づければ、手戻りは減らせます。
海外拠点や協力会社とのコミュニケーションコストが高い
拠点分散・外部連携が進むほど、コミュニケーションは複雑になります。1.3Dデータ(CAD/CAM)がすでに社内に蓄積されている
- 時差があるため、会議回数が増える
- 図面だけでは意図が伝わらず、説明が長くなる
- 言語の違いもあり、すれ違いが起きやすい
- 現地確認が必要になり、出張・移動コストが増える
特に製造の話は、言葉だけで説明しにくいことが多いです。
そのため、3Dを見ながら同じ景色で話せる場があると、やり取りの負担を減らしやすくなります。
メタバース活用で解決を目指せるポイント
「メタバース」と聞くと、ゲームやイベントを想像する人もいますが、製造業での活用はもっと実務的です。
ここでは、製造業の課題解決につながりやすいポイントを3つに整理します。
拠点や部署をこえた「同じものを同じように見る」環境づくり
メタバースの最大の価値は、3Dデータを中心に「同じ空間を共有できる」ことです。
- 設計・製造・品質・営業が、同じ3Dモデルを同時に見られる
- 指差しやポインタで「この部分」と示しやすい
- モデルの周りを歩いて確認できる
- スクショやPDFの往復が減る
これは「見える化」ではなく、共有できる見える化に近い感覚です。
メタバースで共有できると、次のような会話が増えます。
- 「この隙間、作業者の手が入りますか?」
- 「ここ、保守点検時の動線がきついかも」
- 「顧客が触れる部分なので、見た目の印象も確認したい」
こうした早期の気づきが、手戻り削減につながります。
レビュー・打ち合わせの回数と時間の最適化
打ち合わせが増える原因の一つとして、「一回で伝わらない」ことがあげられます。
メタバースでは、伝わりやすさが上がることで、次のような最適化が狙えます。
- 事前説明の時間が短くなる
- その場で 「見る→話す→決める」が進みやすい
- 後日確認や補足説明が減る
- 拠点間移動や出張を減らせる
もちろん、導入しただけで会議が半分になる、といった単純な話ではありません。
ただし、「何を見ながら決めるか」が明確になるほど、会議は短くなりやすいです。
教育・引き継ぎ・ノウハウ共有の場としての活用
教育や引き継ぎが難しい背景には、次のような課題があります。
- ベテランの経験が言語化されていない
- 現場で教える時間が取れない
- 若手が「何を聞けばいいか分からない」
- 拠点が離れていて、同じ現場で教えられない
メタバースを使うと、3D空間に「教育の場」を作りやすくなります。
- 設備や製品の3Dモデルを見ながら説明できる
- 「この順番で確認する」「ここが要注意」という観点を共有できる
- 同じ教材を複数拠点に展開しやすい
- 初学者が気軽に「見学」できる場を作れる
教育を動画で見せるだけではなく、対話しながら理解を深める場にしやすいのがポイントです。
ユースケース別|CAD/CAM連携メタバース活用イメージ
ここでは、CAD/CAMなどの3D資産を活かした、代表的なユースケースを3つ紹介します。
(実際にどこまで連携できるかはツールや運用次第なので、まずはイメージとして整理します)
新製品の設計レビュー(企画〜量産までの流れ)
新製品は、関係者が多く、認識ずれが起きやすい領域です。
メタバース活用の流れの一例:
- 企画段階:仕様案を3Dで共有し、方向性をすり合わせ
- 設計段階:3Dモデルを囲んでレビュー(部門横断)
- 試作前:組立性・保守性・干渉などのチェック観点を共有
- 量産前:変更点の確認と、品質・サービス観点の最終確認
ここで効くポイント
- 「図面だけでは分からない」部分の早期確認
- 営業・サービスが顧客目線でコメントしやすい
- 設計意図が共有され、後工程の疑問が減る
ライン立ち上げ・レイアウト検討(制約条件のすり合わせ)
レイアウト検討は、2Dだけだと運用イメージが湧きにくく、現場での修正が起きやすい領域です。
メタバース活用の例:
- 工場レイアウト(設備・通路・作業エリア)を3D化して共有
- 参加者が空間内を歩き、通路幅や視界、作業スペースを確認
- 安全・保全の観点(危険エリア、点検動線)も同時にレビュー
確認しやすくなる観点の例:
- 人と搬送の動線が交差しないか
- 点検時に手が届く/工具が入るか
- 物の仮置きで通路が詰まりそうか
- 安全柵や表示の位置が適切か
机上の検討が、現場感のある議論に近づきます。
保守・サービス教育(分解・組立・トラブルシュート)
保守やサービスは、経験差が出やすい領域です。
メタバースを説明の場として使うと、引き継ぎの質を上げやすくなります。
活用イメージ:
- 製品の3Dモデルを分解表示し、構造を説明
- 不具合が起きやすい箇所を、モデル上で示しながら共有
- トラブル時の確認手順(どこから見るか)を標準化
- 新人は「まず見学→次に質問→実地」と段階を踏みやすい
資料だけで覚えるより、理解が早くなるケースがあります。
事例で見る「どこから始めて、どう広げるか」
ここでは、導入の現実的な進め方として、代表的な3パターンを紹介します。
ケース1:1ライン/1製品から始めるPoCパターン
最も取り組みやすいのが「対象を絞ったPoC」です。
進め方の例:
- 対象:1製品、または1ラインだけ
- 期間:短期間で回せる範囲
- ゴール:
・認識ずれが減ったか
・レビューが進めやすくなったか
・参加者の負担は増えていないか
向いている会社:
- まずは小さな成功を作りたい
- 部門横断の合意形成に課題がある
- CAD資産はあるが、活用範囲が狭い
ケース2:教育・研修用途からスタートして現場へ展開するパターン
「教育」は、効果が実感されやすく、現場の受け入れも得やすい入口です。
進め方の例:
- 新人向けの製品理解・設備理解から開始
- 次に、保守・サービス教育の標準化へ
- 最終的に、設計レビューや生産準備へ展開
向いている会社:
- 技能伝承や教育負荷に課題がある
- 拠点が分散していて、同じ研修がしづらい
- 現場が業務改善より育成の方に協力的
ケース3:顧客向けデモ・ショールームから社内活用に広げるパターン
顧客向け活用は「見せる価値」が分かりやすく、社内の理解も得やすい入口です。
進め方の例:
- バーチャルショールームで製品を説明
- 顧客の反応・質問を通じて、説明の型を整備
- その型を社内の設計レビューや引き継ぎにも転用
向いている会社:
- 製品が大型で実機展示が難しい
- 技術説明が複雑で、オンラインでは伝わりにくい
- 営業・サービスの連携が課題
導入時にぶつかりやすい壁と、その乗り越え方
メタバース導入でつまずきやすいポイントは、技術だけではありません。
よくある壁を3つに分けて整理します。
現場メンバーの「新しいツールは面倒」という抵抗感
現場が抵抗を感じる理由は、だいたい次の3つです。
- ログインや操作が面倒そう
- 忙しいのに追加の作業が増えそう
- 使わなくても仕事は回っている
ここでの対策は、「便利だから使って」ではなく、現場にとっての得を見える化することです。
乗り越え方の例:
- 最初は見るだけ参加をOKにする
- 操作説明は最短にし、入口のハードルを下げる
- 現場が困っているテーマ(手戻り、教育、引き継ぎ)を選ぶ
- 「これが減るなら助かる」という体験を先に作る
CADデータの整理・権限管理・セキュリティの不安
使う3Dデータが決まっている
CADデータは機密の塊です。ここを曖昧にしたまま進めると止まります。
事前に整理したい観点の例:
- どのデータを使うか(対象範囲の明確化)
- 外部共有する場合の扱い(マスキング、簡略化など)
- 権限(誰が見られるか、誰が持ち出せるか)
- ログイン方式(社内アカウント連携など)
- データの持ち出しや録画可否のルール
「ゼロリスク」ではなく、運用で管理できる形に落とし込むのが現実的です。
最初のテーマ選定と、経営層への説明のコツ
最初のテーマを間違えると、「よく分からない」「使われない」で終わります。
失敗しやすいテーマの特徴:
- とりあえずメタバースを作るが目的になっている
- 対象が広すぎて、評価できない
- 効果が見えにくい(誰の負担が減るか不明)
おすすめの選び方
- 手戻りが多い工程
- レビューが多く、認識ずれが起きやすい案件
- 教育・引き継ぎで現場が困っているテーマ
- 拠点間連携が必須で、移動や時差の負担が大きい領域
経営層への説明は、「流行」ではなく事業課題に結びつけるのがコツです。
- 手戻り削減 → 品質・納期・コストに直結
- 拠点連携 → グローバル展開のスピードに直結
- 教育 → 人材不足・技能伝承の対策として重要
参考:導入検討を進めるための簡易チェック表
| チェック項目 | OKの目安 | 未整備なら先にやること |
| 目的が一文で言える | 「手戻りを減らす」「教育を標準化」など | ゴールを絞る |
| 対象範囲が決まっている | 1製品/1ライン/1研修など | PoCの範囲を縮める |
| 使う3Dデータが決まっている | CADモデルの候補がある | データ棚卸し |
| 関係部署が入っている | 設計+現場+情報システムなど | 最小の横断チームを作る |
| 評価方法がある | 参加者の声+プロセスの変化を見る | PoCの評価項目を決める |
よくある質問(FAQ)
メタバースは、どの部署が主導すべきですか?
.目的によって変わります。
設計レビューなら設計/開発、教育なら人事・教育、拠点連携ならDX推進などが中心になりやすいです。
ただし成功しやすいのは、主導部署+現場+情報システムの最小チームでPoCを回す形です。
いきなり大規模に作り込む必要がありますか?
おすすめしません。
最初は小さく試して、使い方を固めてから広げるほうが失敗しにくいです。作り込みよりも「使われる場」にする設計が重要です。
CADデータが重くて扱えないのでは?
扱えるかどうかは環境次第なので、PoCで確認するのが現実的です。
一般に、用途に応じて軽量化したモデルを使うなどの工夫が検討されます。
次に何をすればいいですか?
次の3ステップがおすすめです。
① 解決したい課題を一文にする(手戻り、連携、教育など)
② PoCの対象を1つに絞る(1製品/1ライン/1研修)
③ 関係部署で評価項目を決め、短期間で試す
まとめ
最後に、PoCテーマ選びで迷う場合は、次の質問に答えると整理しやすくなります。
- 「今いちばん困っているのは、手戻り/拠点連携/教育のどれ?」
- 「その課題が起きているのは、どの製品・工程・チーム?」
- 「関係者を3〜5人に絞るなら誰?」
- 「1〜2ヶ月で“試した結果”が見えるテーマはどれ?」
この4つが決まれば、PoCの準備はかなり進みます。
製造業におけるメタバース活用は、派手な演出よりも、「同じものを同じように見て話せる場」を作ることが本質です。
- 設計・現場・営業の認識ずれを減らし、手戻りを抑える
- 海外拠点や協力会社とのコミュニケーション負担を減らす
- 教育・引き継ぎの“場”をつくり、ノウハウを共有しやすくする
この3つのどれかに課題があるなら、メタバースは検討の価値があります。
まずは大きく始めず、1テーマ・小さなPoCから。
小さく試して、学んで、横展開する。この進め方が、結果的に最短で“使われる活用”につながります。









