「XR」とは、Extended Reality(エクステンデッド・リアリティ) の略で、直訳すると「拡張された現実」という意味になります。エックスアールやクロスリアリティとも呼ばれます。
XRという言葉を見聞きする機会は増えたのに、身の回りで当たり前に使われている実感は少ない。
そんなふうに感じる人は多いはずです。
ただ、流行っていない=価値がないとは限りません。XRはどんな場面でも万能に効く道具ではなく、向いているテーマと進め方を押さえたときに力を発揮しやすい技術です。
この記事では、XRが普及しづらいと言われる理由を整理しながら、伸びる条件と、失敗しない導入の型(目的→PoC→現場の声→運用→改善)を、できるだけわかりやすい言葉でまとめます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の企業・環境・状況への適用や効果を保証するものではありません。内容の利用は読者ご自身の判断と責任にてお願いいたします。参考としてご活用ください。
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監修:UEL株式会社編集部
UEL株式会社のTechデザイン企画部と現場に精通した社内有識者が監修しています。
目次
結論:XRは「万能」ではない。だから合う場所で伸びる
XRが伸びるかどうかは、機材より「目的・体験設計」で決まる
XRというと、つい「高性能な機材」「最新のデバイス」に目が向きがちです。もちろん機材は大事です。けれど現場で差が出るのは、そこ以前の話であることが多いです。
XRがうまくいくかどうかを分けやすいポイントは、次の3つです。
- 目的がはっきりしているか
何を良くしたいのかが言葉になっているほど、作るもの・試すこと・評価がブレにくくなります。 - 体験の設計ができているか
XRは体験そのものが価値です。体験がわかりにくいと、どれだけ凝っていても伝わりません。 - 使い続ける前提があるか
使い方の説明、問い合わせ対応、改善の仕組みなどがないと「一度使って終わり」になりやすいです。
言い換えると、XRは「導入すれば勝手に成果が出る」タイプの道具ではありません。
何のために、誰に、どんな体験を届けるかが決まるほど、XRは強くなります。
「流行=一気に全員が使う」ではなく、「分野ごとに定着」しやすい
「流行る」と聞くと、スマホアプリのように、短期間で一気に広がって誰もが使う状態を想像しがちです。ですがXRは、同じ広がり方をするとは限りません。
XRは特に、次のような形で定着しやすい傾向があります。
- 一部の業務・場面に強く刺さって、そこから広がる
- 特定の人(新人、遠隔拠点、専門スキルが必要な人など)にまず必要とされる
- 「説明しにくいこと」「危険・高コストなこと」を置き換える目的で導入される
つまり、XRは「全部に使う」よりも「合うところから使う」ほうが成功しやすい。
この前提を持っておくと、「流行ってないからやめよう」ではなく、「どこなら効く?」という建設的な見方に切り替えられます。
XRが広く定着しにくいと言われる理由
ここからは、XRが普及しづらいと言われる代表的な理由を4つに整理します。
読んでいて「それ、うちでも起きそう」と思えるものがあれば、後半の先回りがそのまま対策になります。
① 目的が曖昧なまま始めると、評価できず止まりやすい
XRは、できることが多そうに見える分、目的がぼんやりしたままスタートしやすいです。
その結果、次のような状態に陥る恐れがあります。
- 何を作ればいいか決めきれず、仕様が増える
- どこまで作れば十分なのかわからない
- 成果が測れず、「良い気がする」で止まる
- 決裁者・関係者に説明できず、継続予算が出ない
XRに限らず、新しい取り組みが止まる典型パターンですが、XRは見た目の派手さで期待が膨らみやすいぶん、目的の曖昧さが後で効いてきます。
まずは難しく考えず、目的を一文にしてみてください。
この一文があるだけで、「作るもの」と「試すこと」が急に具体的になります。
目的の一文テンプレ:誰の 何を どう良くする
例としては、こんな書き方です(中身は自社・自分の状況に置き換えてOKです)。
- (新人の)安全教育を、(危険ポイントの理解)を、(短時間で正確に身につく)ようにする
- (離れた拠点のメンバーの)打ち合わせを、(対象物の認識合わせ)を、(同じものを見ながらズレなく進める)ようにする
ポイントは、かっこいい言葉にしないことです。
「誰が」「何に困っていて」「どうなれば良いか」が入っていれば十分です。
② 「作って終わり」になりやすい(運用・改善の体制がない)
XRは、作った瞬間がゴールではありません。むしろそこからがスタートです。
ですが現実には、次の理由で止まりやすいです。
- 使い方の説明がなく、現場で広がらない
- 担当が決まっておらず、問い合わせが受けられない
- 改善ができず「一度試して終わり」になる
- 更新されず、内容が古くなって使われなくなる
特にありがちなのは、「制作」だけで計画が終わってしまうことです。
XRは体験が価値なので、使う人の反応を見て、少しずつ直していく運用が重要になります。
運用で決めるべきこと(担当/更新頻度/問い合わせ対応)
- 担当(誰が見るか)
改善の窓口を1人(または1チーム)決める - 更新頻度(いつ見直すか)
例:月1回/四半期ごと/イベント前後、など - 問い合わせ対応(困ったときの道)
例:FAQ/チャット窓口/簡単な手引き、など
「運用の担当を決める」だけで、XRは使い捨てから育てる取り組みに変わります。
③ 使う人が迷うと、体験価値が大きく下がる(体験設計の壁)
XRは体験が価値だからこそ、少しの迷いが満足度を大きく下げます。
たとえば、こんな状態です。
- どこから始めればいいかわからない(導線が不明)
- 何をすればいいかわからない(目的が不明)
- 操作が難しく、ストレスが勝つ(操作が直感的でない)
- 困ったときに助けがない(ヘルプ不在)
XRが好きな人にとっては「慣れれば簡単」でも、初めて触る人にとっては「よくわからない」になりやすい。このギャップが普及を止める恐れがあります。
迷いが起きやすいポイント(導線/操作/ヘルプ)
迷いを減らすときは、次の順番で見直すと効果が期待できます。
- 導線:最初の一歩が明確か(どこを押す?どこに立つ?)
- 操作:やりたいことが自然にできるか(説明が長くないか)
- ヘルプ:困ったときの逃げ道があるか(戻る、スキップ、問い合わせ)
すごい体験より先に、迷わない体験を作ることが普及の近道だと言えるでしょう。
④ すべての人に向くわけではない(抵抗感・不安がある)
XRは魅力的な一方で、新しいもの・慣れないものに対して抵抗感や不安を感じる人が一定数います。
これは「気合い」の問題ではなく、自然な反応です。
よくある理由は次の通りです。
- 新しい道具に不安がある(使いこなせるか心配)
- 見た目・装着に抵抗がある(恥ずかしい、怖い)
- 長時間の体験が苦手(疲れそう)
- そもそも必要性が伝わっていない(なぜやるの?)
ここを無理に押すと、体験そのものが嫌な記憶になりやすいです。
普及のためには「合わない人がいる」前提で設計することが重要です。
代替手段を用意する(強制しない/複数導線)
合わない人に無理をさせないために、最初から複数の入り口を用意します。
- XR体験の前に、短い説明動画を用意する
- XRが難しい人向けに、PC/スマホでも見られる説明を用意する
- 体験時間を短くし、途中でやめてもOKにする
- 「まずは見るだけ」→「触ってみる」へ段階を分ける
強制しない設計は、長期的に見て普及に効きます。
普及の壁→起きがち→先回り(整理表)
ここまでの内容を、実務で使いやすいように表にまとめます。
| 普及の壁 | 起きがちなこと | 先回りでやること |
| 目的が曖昧 | 何を作るか決まらない/評価できない | 目的を一文にする(誰の・何を・どう) |
| 運用がない | 作って終わり/更新されない | 担当・更新頻度・問い合わせ対応を決める |
| 迷う設計 | 価値が伝わらない/ストレスが勝つ | 導線→操作→ヘルプの順に改善する |
| 向き不向き | 抵抗感で離脱/反発が起きる | 代替手段・段階導入・短時間体験にする |
伸びる条件:「XRが効くテーマ」の見極め
「普及しない理由」がわかったところで、次は前向きな話です。
XRが力を発揮しやすいのは、全部ではなく特定のテーマです。ここを見極めると、成功確率の向上が期待できます。
伸びる条件はこの3つ(体験が重要/説明が難しい/遠隔共有)
XRが効きやすいテーマは、ざっくり言うと次の3条件に当てはまります。
- 体験が重要
実際に体を動かす、現場の感覚をつかむ、判断を練習する、など - 説明が難しい
空間・構造・動き・手順・危険ポイントなど、言葉や紙だけだと伝わりにくい - 遠隔共有が必要
離れた場所でも同じ対象を見ながら認識をそろえたい
この3つが揃うほど、XRは「やる意味」が明確になりやすいです。
向いているテーマのチェックリスト(Yes/No)
次の項目にYesが多いほど、XRが向いている可能性が高いです。
□文章や画像だけだと、理解に時間がかかる
□空間の位置関係(どこに何があるか)が重要
□動きや手順の順番が成果を左右する
□危険やコストの理由で、実地の練習がしにくい
□失敗が許されない(事故・品質・安全など)
□人によって説明がバラつき、認識ズレが起きやすい
□遠隔・多拠点で同じものを共有して話したい
□教える人の負担が大きい(同じ説明を何度もしている)
□新人や未経験者が増えて、教育の標準化が必要
□一度見ればわかる状態を作りたい
全部Yesでなくて構いません。
3〜5個でも、「XRで改善できる余地」が見えることがあります。
XRより他の手段が合うケース
一方で、XRが最適ではない場合もあります。たとえば次のようなケースです。
- 知識のインプットが中心(まずは読む・見るが重要)
文章、図解、動画、eラーニングが向くことがあります。 - 利用シーンが短く、単純な確認だけで足りる
紙やWebのチェックリストで十分なこともあります。 - 運用や改善に割ける時間がほぼない
作って終わりになるなら、別手段のほうが成果が出やすいです。
ここで大事なのは「XRをやめる」ではなく、補完として組み合わせる考え方です。
- まずは動画で理解 → 必要な人だけXRで体験
- XRで体験 → その後にチェックリストで定着
- XRが難しい人にはPC/スマホ版でフォロー
XRは置き換えよりも、理解と共有を強くする補助輪として使うと成功しやすくなります。
失敗しない進め方(導入〜定着までの型)
ここからは、XRを「話題」で終わらせず、現場で使われる形にするための進め方を整理します。
大きく作る前に、小さく試して、現場の声で整える。この順番が基本です。
基本の順番は「目的→PoC→現場の声」
XR導入で迷ったら、まずこの順番を守るのが安全です。
- 目的を明確にする
- 小さく試す(PoC)
- 現場の声を反映する
- 運用体制を作る
- 改善を回して定着させる
どれかが抜けると、普及の壁(目的が曖昧/作って終わり/迷う設計/向き不向き)にぶつかりやすくなります。
ステップ1|目的を一文で言える状態にする
最初にやるべきは「目的の言語化」です。
目的が決まると、次が一気に楽になります。
- 何を作るべきか(内容)
- 誰に使ってもらうか(対象)
- どう評価するか(成功条件)
目的文テンプレ
以下を埋めるだけで、最初の土台ができます。
誰の 何を どう良くする
さらに一段だけ具体にするなら、次も足します。
いつ/どこで使う 使った後どうなって欲しい
ここまで書けると、関係者の認識ズレが減り、PoCも設計しやすくなります。
ステップ2|向いているテーマか見極める(3条件で判断)
目的が決まったら、「XRが効くテーマか?」を判断します。
迷ったら、先ほどの3条件に戻ります。
- 体験が重要か
- 説明が難しいか
- 遠隔共有が必要か
このどれにも当てはまらない場合は、XRを主役にしないほうが成果が出やすい可能性があります。
逆に、2つ以上当てはまるなら、PoCをする価値は十分あると期待できます。
ステップ3|PoCで小さく試す(テーマ1つ・少人数・短期評価)
PoC(小さな検証)は、「大成功を狙う場」ではありません。
失敗しやすい点を早く見つけて、安く直す場です。
PoCでおすすめの絞り方は次の通りです。
- テーマは1つに絞る(欲張らない)
- 対象者は少人数(まずは濃いフィードバックを取る)
- 期間は短期(早く回す)
- 評価は「完璧さ」より「つまずきポイント」の発見に寄せる
PoCで見るべきポイント(操作/理解/体験時間)
PoCで見るべきポイントは、派手な機能よりも実際に使えるかです。
- 操作:どこで迷ったか/説明なしで進めたか
- 理解:体験後に何がわかったか/ズレが減ったか
- 体験時間:長すぎないか/集中が切れていないか
PoCのアンケートは長くしなくてOKです。
たとえば、次のような短い質問だけでも十分に改善材料が集まります。
- 迷ったところはどこですか?(1つでOK)
- 体験後に「わかった」と思えた点は何ですか?
- 体験の長さはどう感じましたか?(短い/ちょうどいい/長い)
ステップ4|運用・改善の体制を決める
PoCで手応えが出たら、次に決めるのは「運用」です。
運用が決まらないまま本番に入ると、せっかく作っても使われなくなりやすいです。
運用で最低限決めたいのは、次の4つです。
- 更新:いつ、何を、誰が直すか
- 教育:使い方をどう伝えるか(短い手引き、説明動画など)
- 周知:誰に、いつ、どう案内するか
- サポート:困ったときの窓口(FAQ、問い合わせ先)
運用設計の要点(更新/教育/周知/サポート)
運用を仕組み化するコツは、完璧を狙わないことです。
最初は小さく、回しながら整えるほうが現実的です。
- 更新:まずは「月1回の見直し」だけ決める
- 教育:「1枚の手引き」か「1分の動画」から始める
- 周知:「対象者にだけ」伝える(全社一斉でなくていい)
- サポート:「問い合わせはここ」だけ決める
運用が決まると、XRはイベントではなく習慣になりやすくなります。
ステップ5|現場の声を拾って改善
最後に重要なのが、改善です。XRは一発で100点の完成を出しづらい分、改善が重要です。
改善の優先順位は、だいたい次の順がおすすめです。
- 導線(迷いを減らす)
- 説明(何をすればいいかが伝わる)
- 体験設計(価値が伝わる流れになっている)
派手な新機能より、「迷わない」「短時間で理解できる」「続けやすい」が重要です。
現場の声を拾い、少しずつ整えることで、定着は現実的になります。
よくある質問(FAQ)
XR導入は何から始めるのが安全ですか?
まずは「目的を一文にする」ことから始めるのが安全です。
そのうえで、向いているテーマかを見極め、PoCで小さく試してから広げると失敗しにくくなります。
XRは今後も広がりますか?
「一気に全員が使う」という意味の広がり方ではなく、用途や分野ごとに定着していく形が現実的です。
向くテーマと進め方を押さえたところから成果が出やすくなります。
XRが向いていない場合はどうすればいいですか?
XRを主役にせず、動画・図解・チェックリストなど他の手段を中心にし、必要な人だけXRを補助的に使う方法があります。
「置き換え」ではなく「補完」として組み合わせるのがポイントです。
まとめ
XRが「流行らない」と言われる背景には、主に次の4つの壁があります。
- 目的が曖昧で、評価できず止まりやすい
- 運用がなく、「作って終わり」になりやすい
- 使う人が迷うと、体験価値が大きく下がる
- すべての人に向くわけではなく、抵抗感もある
一方でXRは、体験が重要で、説明が難しく、遠隔共有したいテーマに当てるほど価値が出やすくなります。
進め方は「目的→PoC→現場の声→運用→改善」が基本です。
次にやることはシンプルです。
- 目的を一文にする
- 3条件で“向くテーマ”か確かめる
- PoCで小さく試す
この3つができれば、「流行っているかどうか」ではなく、「自分たちにとって使う意味があるかどうか」で判断できるようになります。









