RoHS(ローズ)指令とは?基礎から実務までわかりやすく徹底解説

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制定背景

2000年代初頭、EU域内では鉛・水銀・カドミウムなど有害化学物質による土壌・水質汚染が社会問題化し、電気電子機器から発生する廃棄物のリスクがクローズアップされました。各国ごとにバラついていた規制を統一し、域内市場の健全な流通と環境負荷低減を同時に達成するため、欧州委員会は包括的な化学物質管理政策を推進。その柱の一つとして2003年に採択されたのが RoHS 指令Restriction of Hazardous Substances Directive です。

RoHS は同時期に公布された WEEE 指令Waste Electrical and Electronic Equipment Directive と連動し、前者が「有害物質の使用制限」、後者が「使用済み製品の回収・リサイクル義務化」という両輪で循環型社会を実現する設計になっています。特に両指令をセットで運用することで、製品ライフサイクル全体での環境負荷を最小化し、企業責任を法的に明確化しました。

制定の背景には、バッテリーやはんだから漏出した鉛による地下水汚染、蛍光ランプに含まれる水銀が焼却工程で大気に放散し再降下する「メチル水銀汚染」など、実際に健康被害や生態系への影響が報告された事例があります。こうした 有害化学物質の土壌・水質への影響 が EU 全体の共通課題となり、「予防原則」に基づく厳格な含有規制へと結実しました。

このように RoHS 指令は、環境保護と域内市場の統一という二重の目的を背景に誕生した EU 先進的環境立法の一つであり、後発各国の同等規制(中国版RoHS、Eurasia RoHS など)のベースモデルともなっています。

RoHS 指令の目的

RoHS指令の目的:有害物質を減らして人の健康を守る、廃棄物による環境への悪影響を減らす、EU内で製品の流通をスムーズにする、3つの目的をイラスト付きで示したインフォグラフィック

RoHS 指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)は、電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用を制限し、製品ライフサイクル全体での環境・健康リスクを最小化することを狙いとして制定されました。具体的な目的は次の三点に整理できます。

1. 有害物質の使用制限による人の健康保護

鉛・水銀・カドミウム・六価クロムなどの重金属や臭素系難燃剤は、製造・使用・廃棄の各段階で人体に悪影響を及ぼす恐れがあります。RoHS はこれら物質を質量分率 0.1%(カドミウムのみ 0.01%)以下に抑えることで、労働者・消費者・地域住民の長期的な健康被害を未然に防止します。医療機器・民生機器など幅広い製品が対象となるため、規制遵守はサプライチェーン全体にわたるリスクマネジメントにも直結します。

2. 廃電気・電子機器からの環境負荷低減

使用済み製品を焼却・埋立処分する際、上記の有害物質が土壌や水系に漏出し、生態系を汚染する事例が報告されています。RoHS は 廃電気・電子機器(e-waste)の有害性を源流で削減するアプローチを採用し、WEEE 指令のリサイクル・回収義務と相乗効果を発揮。結果として資源循環率の向上と適正処分コストの抑制を実現しています。

3. EU 域内での製品流通の統一化(貿易障壁排除)

かつては加盟国ごとにバラバラだった化学物質規制が域内取引の障壁となり、企業は国別対応で高コストを強いられていました。RoHS 指令は 単一の規格を導入することで技術的貿易障壁を撤廃し、CE マーキングを介したスムーズな製品流通を可能にします。これにより EU 市場への参入要件が明確化され、製造業者は統一基準に沿った設計・品質管理を行うだけで域内全域で販売できるメリットを得られます。

これら三つの目的を理解し、自社製品の含有化学物質管理やサプライヤー調査を徹底することが、RoHS 適合および国際市場での競争力確保の第一歩となります。

制限対象物質(RoHS 10 物質)の一覧

RoHS 指令は電気・電子機器に含まれる 10 種の有害化学物質 を規定濃度以下に制限し、製造・使用・廃棄の各段階で人の健康と環境への影響を抑えることを目的としています。閾値は 「均質材料(homogeneous material)あたりの質量分率」 で定められており、製品全体の平均値ではない点に注意が必要です。

物質閾値
※質量分率
主な用途例健康・環境リスクの例
鉛(Pb)0.1 wt%はんだ、銅合金、ガラス神経系障害、発達障害
水銀(Hg)0.1 wt%蛍光ランプ、スイッチ生物濃縮・メチル水銀中毒
カドミウム(Cd)0.01 wt%Ni-Cd 電池、顔料腎障害、発がん性
六価クロム(Cr⁶⁺)0.1 wt%防錆処理(クロメート)皮膚炎、発がん性
PBB
(ポリ臭化ビフェニル)
0.1 wt%難燃剤(樹脂・筐体)残留性、有害性
PBDE
(ポリ臭化ジフェニルエーテル)
0.1 wt%難燃剤(プリント基板)内分泌かく乱
DEHP
(フタル酸ジ‐2-エチルヘキシル)
0.1 wt%PVC生殖・発生毒性
BBP
(フタル酸ブチルベンジル)
0.1 wt%PVC、建築材料、塗料、セロハン等生殖・発生毒性
DBP
(フタル酸ジブチル)
0.1 wt%PVC、ラッカー、接着剤、印刷インキ、殺虫剤等生殖毒性、発達毒性、および内分泌かく乱作用
DIBP
(フタル酸ジイソブチル)
0.1 wt%PVC、塗料,顔料,接着剤,合成レザー等生殖・発生毒性

ポイント

  • フタル酸エステル類 4 物質(DEHP、BBP、DBP、DIBP)は 2019 年 7 月 22 日に規制物質として追加されました。
  • 閾値は「各物質ごと」に適用され、混合して 0.1 % を超えなければ良いというわけではありません。
  • 測定には蛍光X線分析(XRF)によるスクリーニングや化学分析(ICP-MS 等)が用いられ、信頼できる試験報告書が適合宣言の根拠資料になります。

適合管理の実務ヒント

  1. BOM(部品表)を最新状態で電子化し、部材ごとに含有物質データを紐づける。
  2. サプライヤー調査を体系化。回答フォーマットや社内ルールを統一して、情報分析をしやすい環境を整える。
  3. 高リスク部材は自主試験を実施し、XRF でスクリーニング → 陽性なら詳細分析の二段階でコストを最適化。
  4. 附属書 III の除外項目(高温はんだ、鉛ガラスなど)は期限管理を行い、延長審査の動向をウォッチ。

この 10 物質の閾値遵守は RoHS 適合の最重要ポイントです。自社製品の用途・材料構成を洗い出し、リスクの高い部材から優先的に管理体制を整備しましょう。

適用製品範囲 ― 11 カテゴリーと主な除外項目

RoHS 指令が適用されるのは、定格電圧が交流 1 000 V 以下・直流 1 500 V 以下 の電気電子機器です。指令⾃体は製品を 11 カテゴリーに分類し、それぞれに同じ制限物質基準を課しています。ここでは 医療機器(カテゴリー 8)監視・制御機器(カテゴリー 9) を含め、全体像を整理します。

11 カテゴリー一覧

カテゴリー代表的製品例
1. 大型家庭用電気製品冷蔵庫、洗濯機
2. 小型家庭用電気製品掃除機、電気歯ブラシ
3. IT・通信機器ノートPC、スマートフォン
4. 民生用機器テレビ、オーディオ機器
5. 照明機器LED 照明器具、蛍光ランプ
6. 電気電子工具ドリル、グラインダー
7. おもちゃ・レジャー・スポーツ用品電動ホビー、ゲーム機
8. 医療機器MRI、X線装置、注射ポンプ
9. 監視・制御機器産業用センサー、火災報知器
10. 自動販売機飲料ベンダー、切符券売機
11. その他の電気電子機器自動ドア・機能付き衣類(ファン付き等)

主な除外項目と実務上の注意

RoHS 指令には 大型定置産業用工具(LSSIT)大型据付固定装置(LSFI) など、機器規模や据付形態を理由に適用外となるケースがあります。

除外対象該当条件の概要
大型定置産業用工具製造設備など工場に固定設置され、移動させて使用しない工具類半導体製造ライン、鋼板圧延プレス
大型据付固定装置専用部材で恒久的に建造物に直接据付ける大型装置発電用ガスタービン、空港用ボーディングブリッジ
  • ポイント 1:除外品でも、組み込みサブユニットが単体で市販される場合は RoHS 適合が必要になることがあります。
  • ポイント 2:当該装置に組み込む交換部品・スペアパーツは、原則として元製品の市場投入日を基準に適用可否を判断します。
  • ポイント3:RoHS指令は対象外でも、REACH規則での報告義務対象物質については管理対象としておく必要がある。

まとめ ― 適用範囲の判断フロー

  1. 電圧条件を確認(AC ≤ 1 000 V、DC ≤ 1 500 V)。
  2. 11 カテゴリーに該当するか分類
  3. 大型定置産業用工具・大型据付固定装置など除外条項と照合
  4. グレーゾーンの場合は EU 官報のガイドライン業界団体 FAQ を参照し、必要に応じて第三者試験機関に確認。専門のコンサルタントに相談も有効。

適用可否を早期に見極めることで、サプライチェーンへの要求や適合宣言(DoC)準備を効率化できます。 RoHS 指令の製品範囲を正しく理解し、設計段階からリスク低減策を講じましょう。

適用除外物質と条件(※一例)

RoHS指令では、技術的・安全上の理由から代替が困難な場合に限り、附属書III(カテゴリー共通) および 附属書IV(医療・監視機器用) の「適用除外(Exemption)」が認められています。適用除外には有効期限が設定される場合があり、欧州化学品庁(ECHA)が定期的に内容を見直しています。
そのため、最新の適用状況を継続的に確認しながら運用することが不可欠 です。

以下では、代表的な除外品目の一例と、削除・変更要否を判断する際の流れを整理します。

除外物質/用途附属書 番号適用条件・上限一般的な使用例現行期限*
鉛ガラス/鉛セラミック7(c)-Iガラスまたはセラミック部材に含有する鉛(質量分率制限なし)抵抗器チップ、コンデンサ、ディスプレイガラス無期限
※技術的代替が見つかるまで存続
高温はんだ(鉛 ≥ 85 wt%)7(a)融点が 183 ℃を超えるはんだ中の鉛パワー半導体実装、航空宇宙機器無期限
特定用途の鉛
(例:医療用イオンポンプ、X線防護ガラス等)
例:31a, 34用途・濃度・質量に個別制限医療診断装置、分析機器5~7 年ごとに見直し

* 医療機器・監視制御機器に該当する場合、初回適用日から最大 7 年の猶予が付与される例があります。

留意点

有効期限が設定されている除外項目 については、延長申請や削除検討の動向 を随時把握し、代替材料/プロセスの検討 を早期に開始してください。

適用除外の件数は多数 に上るため、自社製品が該当するかを ECHA の最新リストや官報 で定期的にチェックする必要があります。

除外期限と延長審査の仕組み

  1. 標準期限
    • 多くの除外項目は付与から 最大 5 年(医療・監視機器は 7 年) で失効。無期限項目でも技術進歩レビューは継続されます。
  2. 延長申請(Renewal)
    • 利用者(産業団体・メーカー等)は失効予定日の 18 ~ 24 か月前までに欧州委員会へ技術報告書を提出。
    • 代替技術の可用性、経済影響、環境・健康リスク比較が主要評価項目。
  3. 専門評価
    • 欧州委員会が委託する第三者機関(例:Oeko-Institut)がパブリックコンサルテーションを経て技術妥当性を審査。
  4. 結果公示
    • 継続可と判断されれば**委任指令(Delegated Directive)**として EU 官報に掲載され、5 年単位で延長。
    • 不可の場合は除外削除され、失効日から 12 ~ 18 か月後に市場投入される製品が対象外となる経過措置が設定される。

実務ポイント

  • BOM データベースで除外番号を紐づけ:部品単位で 7(a)、7(c)-I などのタグを付与し、更新時に一括抽出できる体制を構築。
  • 関連する適用除外については、定期的に猶予期限を確認し、代替手段を講じる等、設計部門と品質保証部が共同で顧客要求を遵守するため、情報交換をしておく必要がある。
  • サプライヤーから入手する適合証明書等に、適用除外の根拠条項・バージョン”を明記させ、法改正後もトレーサビリティを確保。

RoHS 適合の鍵は、除外項目の期限管理延長審査のウォッチです。自社の使用状況を早期に把握し、技術代替や設計変更のロードマップを前倒しで策定しましょう。

適用地域・各国の動き

RoHS 指令は EU で誕生しましたが、現在は 「EU+世界各国の同等規制」 というグローバルネットワークを形成しています。ここでは主要地域の最新動向を俯瞰し、輸出入ビジネスで押さえておくべきポイントを整理します。

1. EU 加盟 27 か国 ― RoHS “本家” の改正ロードマップ

項目概要
対象国ドイツ・フランス・イタリアなど 27 か国(2025 年現在、英国はブレグジットにより別管理)
現行バージョン2011/65/EU+(EU)2015/863(物質数変更 6→10 および、カテゴリ拡大)
直近の動向– 2023–24 年:PFAS グループ追加に向けたインパクト評価実施
– 2025 年以降:カーボンフットプリント連携の検討

実務 TIP:EU 向けは CE マーキング+適合宣言(DoC) が必須。製品別技術文書を 10 年保管する義務があります。

2. トルコ(Eurasia)および EAEU ― TR 037/2016

項目概要
対象国トルコ独自 RoHS(EEE 規則)と、EAEU 5 か国(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア・キルギス)の TR 037/2016
制限物質EU と同一の 10 物質(EAEU はカドミウム 0.01 %)
適合マークトルコ:CE マーク相当の「CE⟨トルコ識別子⟩」
EAEU:EAC マーク
書類要件ロシア語/トルコ語技術文書、現地認証機関登録が必要

3. 中国版 RoHS ― 《电器电子产品有害物质限制使用管理办法》

項目概要
対象範囲初期 6 カテゴリー → 2024 年時点で 所有商品の 90 % 超をカバー
ラベル“绿色环保”マーク(GB/T 26572)& 環境保護使用期限(e.g., 50 年)
ホワイトリスト制度「適用製品リスト」に掲載 → CCC 認証と統合する動き
留意点成分表 (SJ/T 11364 マーク) を中国語で開示。オンライン販売品も適用対象

4. 米国 ― カリフォルニア Proposition 65 と州別イニシアチブ

項目概要
規制対象900 以上の化学物質(鉛・フタル酸エステル・ニッケル化合物等)
要求事項消費者への 警告表示義務(“⚠︎ WARNING: This product can expose you to…”)
州別 RoHSカリフォルニア EWRA(RoHS 同等)、ワシントン州などが追随
注意点同じ製品でも 州境を跨ぐ販売チャネルによって表示要件が変わるため、eコマース事業者は全米レベルでの法令マッピングが必要

5. その他主要国・地域のトレンド

地域キーワード概要
韓国K-RoHSEU10物質と同様
インドE-Waste Rules2023 年改正で生産者責任拡大 (EPR) を強化
日本J-MOSS6 物質→追加物質検討中。グリーンマーク表示は自主基準

まとめ ― グローバル適合戦略の勘所

RoHS 規制は 「EU だけのルール」から「世界のデファクト」 へと進化しています。対象地域の最新動向を押さえ、製品設計段階から含有化学物質リスクを最小化することで、輸出機会を逃さず市場競争力を高めましょう。

他環境規制との違い

RoHS 適合を目指す際に混同されやすいのが REACHELV、そして今後本格化が予想される PFAS 規制 です。それぞれの主眼と RoHS との相違点を一覧にまとめると次のとおりです。

規制主眼主な相違点(RoHSとの比較)
REACH 規則化学物質の登録・評価・認可・制限
(Regulation (EC) No 1907/2006)
– 製品そのものではなく「物質単位」で規制。
SVHC(高懸念物質)候補リスト掲載後、90 日以内に SCIP 登録が義務化。
– 含有量 0.1 wt% 超で情報開示義務(記事 33 条)。
ELV 指令自動車向け含有物質制限
(Directive 2000/53/EC)
– 適用範囲は 自動車(乗用車・商用車) に限定。
車載特有の除外規定(例:鉛バッテリー、燃料タンク)あり。
– 2018 年以降、車載電装品に RoHS 同等制限を段階的導入中。
PFAS(規制強化中)永続性化学物質(Forever Chemicals)の包括的制限提案– 2025~26 年にかけて 1 万超の PFAS 化合物を一括規制する案が EU で審議中。
– RoHS が 10 物質個別規制なのに対し、グループ規制で対象物質が桁違いに多い。
– 電子部品のフッ素系潤滑剤・コーティング剤の影響が大きい見込み。

早わかりポイント

RoHS/ELV と REACH/PFAS の規制単位の違い、情報開示レベル、除外規定・経過措置、今後のインパクトを項目別に比較した早わかり表
  1. 規制単位の違い
    • RoHS/ELV:完成品または均質材料単位で含有濃度を管理。
    • REACH/PFAS:化学物質そのものを登録・届出し、用途や量に応じて制限。
  2. 情報開示レベル
    • RoHS は CE マーク+適合宣言で完結するのに対し、REACH は サプライチェーン全体での成分開示が不可欠。
  3. 除外規定・経過措置
    • ELV の鉛バッテリー除外や RoHS の高温はんだ除外のように、業界特化の例外条項が存在するかを確認。
  4. 今後のインパクト
    • PFAS 規制は「フッ素化潤滑剤/防汚コーティング」など電子機器に広く使用される素材に波及。RoHS 以上のサプライチェーン再構築が必要になる可能性。

まとめ ― マルチレギュレーション時代の対応戦略

  • 社内データベースの構築(管理):IEC62474準拠(RoHS/REACH/POPs規則等が包含された)の化学物質DBを組み込んだ部品管理システムによる自社製品/部品/材料の規制適合状況の正確な把握。
  • トレーサビリティ(調査):輸出企業は、REACH SVHC対象物質を含む欧州向けの製品について、トレーサビリティを目的としたSCIPデータベースへの登録が求められます。輸出に直接かかわらない川中企業も完成品メーカからのchemSHERPA等での関連情報の提供が求められるため、部材メーカへの同様の調査とデータ整備が重要。
  • 規制予見活動(監視):RoHS適用除外の有効期限の把握、日々強化されるREACHやPOPs規則等の多くの規制の動きを、EU官報や業界団体情報で定点観測する。また、情報収集サイトの活用やコンサルタントと定期相談などでファクトチェックするのがさらに効果的。