自動車業界に関わると、「IMDS(アイエムディーエス)」という言葉を必ず耳にします。新しくIMDS担当になった方や、これから自動車メーカーとの取引を検討している企業にとっては、「名前は聞くけど、正直よくわからない」「なぜ対応しなければならないのか知りたい」と感じるケースも多いのではないでしょうか。
IMDSは、自動車業界で事実上の標準となっている材料データ管理システムです。単なる書類作成ツールではなく、環境規制への対応や、サプライチェーン全体の信頼性を支える重要な仕組みとして位置づけられています。
一方で、IMDSは専門用語が多く、全体像をつかみにくいのも事実です。そこでこの記事では、IMDSの「全体像」を初心者の方にもわかるように整理します。
この記事でわかることは、次のとおりです。
- IMDSとは何か(基本的な考え方と役割)
- なぜIMDSが必要なのか(背景にある環境規制)
- IMDSを導入・運用するメリット
- IMDS運用の全体的な流れ
- 他の書式(JAPIAシート、chemSHERPA)との違いの考え方
まずは、IMDSがどのような位置づけの仕組みなのかを、シンプルに整理してみましょう。
IMDSを一言で表すと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | International Material Data System |
| 主な目的 | 自動車部品に含まれる材料・物質情報の管理と報告 |
| 主な利用者 | 自動車メーカーおよびそのサプライヤー |
| 重要性 | 取引継続・新規参入に直結する要件 |
IMDSは、「自動車ビジネスに参加するための共通ルール」とも言えます。まずはこの前提を押さえることで、個別の入力方法や細かなルールも理解しやすくなります。
この先では、IMDSの基本から導入の考え方までを順を追って解説していきます。「とりあえず全体像を知りたい」という方は、ぜひこのまま読み進めてください。

監修・執筆:UEL株式会社編集部
UEL株式会社のTechデザイン企画部と現場に精通した社内有識者が監修しています。
目次

IMDSとは?|International Material Data Systemを初心者向けに解説
IMDS(アイエムディーエス)は、自動車業界で使用されている材料データ管理のための共通システムです。自動車部品に「どのような材料や物質が、どれくらい含まれているのか」を統一されたルールで報告・共有する目的で使われています。まずは、IMDSの正式な意味と、基本的な役割から整理していきましょう。
IMDSの正式名称と基本的な役割
IMDSの正式名称は International Material Data System です。日本語にすると「国際材料データシステム」となり、その名のとおり国境を越えて共通利用される仕組みとして設計されています。
IMDSの最も基本的な役割は、自動車部品に含まれる材料情報を正確に伝えることです。ここでいう「材料データを報告する」とは、単に材質名を書くことではありません。
具体的には、次のような情報を体系的に整理し、提出します。
- 部品を構成する材料や物質の種類
- それぞれの含有割合(%)
- 禁止・制限物質が含まれていないか
- リサイクルや廃棄を考慮した情報
このようにIMDSは、環境規制への対応を証明するためのデータ基盤として機能しています。
IMDSで管理される「材料データ」とは?
IMDSでは、材料データを階層構造で管理します。これは初心者がつまずきやすいポイントですが、考え方自体はシンプルです。
IMDSの基本的な構造は、次のようになっています。
| 階層 | 内容 |
|---|---|
| 物質 | 化学物質(例:鉛、水銀等の有害物質や、鉄、アルミニウムなどの一般物質。なお、CAS Noが特定できないケースもあり) |
| 材料(マテリアル) | 単一または複数の物質で構成される素材 |
| セミコンポーネント | 最終製品になる前に加工を必要とする単一素材の成形品(鉄板、電線等) |
| コンポーネント(部品) | 材料やセミコンポーネントで構成された部品 |
| コンポーネント(複合部品/アセンブリ/製品) | 複数の部品を組み合わせた複合部品や完成品 |
この構造により、最終製品にどの物質がどれだけ含まれているかを上位から下位まで追跡できるようになっています。
IMDSで特に重要視される情報は以下の3点です。
- 含有率:各物質・材料が占める割合
- 禁止・制限物質:環境規制に抵触しないか
- リサイクル情報:リサイクル材使用率を正しく把握し、資源循環を考慮した設計か
これらの情報を正確に入力することで、メーカー側は法規制への対応状況を確認できます。
IMDSは誰が使うシステムなのか?
IMDSは、特定の企業だけが使うシステムではありません。自動車業界全体で共通利用される仕組みです。
主な利用者は、次の2つの立場に分かれます。
- 自動車メーカー(OEM)
完成車を製造・販売する企業。IMDSを通じて、サプライチェーン全体の材料情報を管理します。 - Tier1〜TierNサプライヤー
部品や材料を供給する企業。OEMの要求に応じてIMDSデータを作成・提出します。
IMDSが「取引条件」になる理由は、環境規制への最終責任をOEMが負っているためです。OEMは、自社だけでなくサプライヤーの部品情報も含めて規制対応を証明する必要があります。
そのため、IMDSへの対応は「できればやる作業」ではなく、「取引を続けるための前提条件」として扱われるケースが多くなっています。
まずは、IMDSがこのような立場と役割を持つシステムであることを理解することが、スムーズな運用への第一歩となります。
なぜIMDSが必要なのか?|ELV指令と環境規制の背景
IMDSが自動車業界で必須とされる最大の理由は、環境規制への対応です。特に、欧州を中心に進められている環境規制は、自動車メーカーだけでなく、部品を供給するサプライヤーにも大きな影響を与えています。ここでは、その代表例であるELV指令を軸に、IMDSが求められる背景を整理します。
ELV指令(使用済み自動車の廃棄やリサイクルに関する指令)
ELV指令とは、EU(欧州連合)が定めた使用済み自動車の廃棄やリサイクルに関する環境規制です。自動車が使用された後の廃棄・リサイクルまでを視野に入れたルールとして制定されました。従来は「廃自動車指令」や「廃車指令」などとも呼ばれていましたが、資源循環を目指す意図から中立的な表現に変更されています。
この指令の大きなポイントは、次の2点です。
- リサイクル率の確保
廃車となった自動車を、できるだけ再資源化することが求められます。 - 有害物質の使用制限
鉛や水銀など、環境や人体に悪影響を及ぼす物質の使用が厳しく制限されています。
これらを守るためには、車両を構成する部品や材料の中身を正確に把握していることが前提となります。IMDSは、その情報を整理・証明するための仕組みとして位置づけられています。
自動車メーカーがIMDSを要求する理由
IMDSへの対応を強く求めるのは、多くの場合、自動車メーカー(OEM)です。その背景には、メーカー側が負う法的責任があります。
完成車を市場に出すOEMは、環境規制を守っていることを最終的に証明する立場にあります。そのため、自社で製造する部品だけでなく、サプライヤーから調達した部品についても材料情報を把握する義務があります。
この責任を果たすため、OEMは次のような形でIMDSを活用します。
- サプライヤーから統一形式で材料データを収集
- 車両全体として規制に適合しているかを確認
- 規制当局や監査への説明資料として活用
つまりIMDSは、サプライチェーン全体で規制対応を証明するための共通言語として機能しているのです。
IMDS未対応だと起こるリスク
IMDSに対応していない場合、企業にとって無視できないリスクが生じます。代表的なものは、次の2点です。
- 取引停止や新規採用不可
IMDSデータの提出が取引条件となっている場合、未対応では部品の採用や継続取引ができなくなる可能性があります。 - 海外案件での競争力低下
特に欧州を中心としたグローバル案件では、IMDS対応が前提となるケースが多く、対応していない企業は候補から外されやすくなります。
IMDSは単なる事務作業ではなく、事業継続や市場参入に直結する要素です。なぜ求められているのかという背景を理解することで、IMDS対応の重要性もより明確になるでしょう。

IMDS導入のメリット|単なる義務ではない理由
IMDSは「やらなければならない作業」として捉えられがちですが、正しく運用することで、業務効率や企業評価の向上につながる側面もあります。ここでは、IMDS導入によって得られる主なメリットを整理します。
世界の主要自動車メーカーに一括対応できる
IMDSの大きな特徴は、複数の自動車メーカーに対して共通の形式で材料データを提出できる点です。IMDSを使わない場合、メーカーごとに異なる様式やルールで資料を作成する必要があり、担当者の負担は大きくなります。
IMDSを導入することで、次のようなメリットがあります。
- OEMごとの個別様式が不要
共通フォーマットでの対応が可能になり、資料作成の重複を防げます。 - グローバル取引への対応力が向上
国内外のメーカーに対して、同じ仕組みで材料情報を提出できます。
結果として、少ない工数で幅広い取引先に対応できる体制を整えることができます。
環境コンプライアンス対応の効率化
IMDSは、環境規制や社内ルールへの対応を効率化する点でも有効です。材料情報が一元管理されるため、必要な情報をすぐに取り出せます。
IMDSが役立つ主な場面は、以下のとおりです。
- ELV指令やREACH規則への対応
- 社内監査や取引先監査への対応
- 規制変更時の影響確認
特に重要なのが、証跡としてIMDSデータを残せる点です。いつ、どの情報を、どの取引先に提出したのかを明確に説明できるため、後から確認や修正が必要になった場合にも対応しやすくなります。
サプライヤーとしての信頼性向上
IMDSに適切に対応していることは、サプライヤーとしての評価にも影響します。多くの自動車メーカーにとって、IMDS対応は「最低限の前提条件」である一方、安定して運用できている企業は信頼されやすい傾向があります。
IMDS対応が評価につながるポイントは、次のとおりです。
- 「IMDS対応済み企業」としての安心感
- 材料情報管理ができているという企業姿勢
- 環境意識・コンプライアンス意識の高さ
これらは、新規案件の獲得や海外展開を進める際にもプラスに働きます。IMDSは義務対応にとどまらず、中長期的な事業成長を支える基盤として捉えることができます。
IMDSは自動車業界だけのもの?|他業界での利用状況
IMDSは自動車業界で広く使われているシステムですが、「他の業界でも使えるのか?」という疑問を持つ方も少なくありません。ここでは、IMDSが自動車業界標準となっている理由と、他業界での扱いについて整理します。
IMDSが自動車業界標準である理由
IMDSが自動車業界の標準として定着している背景には、業界全体での合意形成があります。個別企業ごとに異なる仕組みを使うのではなく、共通のルールを作ることで、サプライチェーン全体の負担を減らす目的がありました。
その中心となったのが、自動車メーカー(OEM)主導の仕組みです。完成車メーカーが共通の要件を定め、サプライヤーに対して同じ形式での材料報告を求めることで、業界全体にIMDSが広がりました。
このようにIMDSは、特定企業のツールではなく、業界全体で合意された共通基盤として機能しています。
建機・農機・産業車両業界での扱い
自動車業界以外でも建設機械や農業機械、産業車両といった分野でもIMDSが話題にあがることがあります。但し、自動車業界以外への報告の際にはIMDSは利用することができません。
そのため、日本国内の建設機械や農業機械の分野では、類似のスキームである「JAPIAシート」を活用して化学物質データの流通を行っています。
どちらの業界にも属するサプライヤーとしては、各業界ごとに対応方法が異なり、顧客によって使い分けを行う必要があります。
IMDSが「流用できない」ケース
IMDSは汎用的な材料管理ツールではなく、自動車業界向けに最適化された仕組みです。そのため、他業界の規格や要求事項と完全に一致しないケースもあります。
主な理由は、次のとおりです。
- 他業界規格との前提条件の違い
対象とする製品構造や管理粒度、求められる情報が異なる場合があります。 - 無理に使うことによるリスク
相手先の要求と合わない形式で提出すると、差し戻しや追加対応が発生し、かえって工数が増えることがあります。
IMDSは非常に有効な仕組みですが、すべての業界に万能というわけではありません。取引先や業界の要件を確認したうえで、適切なツールを選ぶことが重要です。

IMDS運用の全体フロー|受信・作成・送信をを把握する
IMDS運用は、細かな入力作業に目が向きがちですが、まずは全体の流れを把握することが重要です。個々の作業は、この流れの中の一部分にすぎません。ここでは、初心者の方でも理解しやすいように、IMDS運用を俯瞰して整理します。
IMDS運用の全体像
IMDSの基本的な運用フローは、次の4ステップで構成されています。
- 受信
- 確認
- 作成
- 送信
流れを一言で表すと、「受信 → 確認 → 作成 → 送信」です。
この順番を意識することで、「今どの作業をしているのか」「次に何をすべきか」が明確になり、無駄な手戻りを防ぎやすくなります。
取引先からのIMDSデータ受信
IMDS運用は、新規登録の場合には、取引先からデータを受け取るところから始まるケースが多くあります。受信したら、そのまま使うのではなく、内容を必ず確認することが重要です。
既存製品の変更の場合には、既に登録されている部材を検索し、部品変更がない場合には過去の情報をそのまま活用できるため、取引先に対しての調査依頼をスキップすることが可能です。
受信時に確認すべき主なポイントは、次のとおりです。
- 自社製品・部品として正しい構成になっているか
- 禁止・制限物質に関する記載漏れがないか
- 含有率の合計がルールどおりになっているか
これらに問題があると、後工程で差戻しが発生します。差戻しの多くは、入力ルールの認識違いや情報不足が原因です。早い段階で確認することで、後の修正負担を減らせます。
自社製品のIMDSデータ作成
次に行うのが、自社製品のIMDSデータ作成です。この工程では、部品構成の考え方が重要になります。
基本的な考え方は、次のとおりです。
- 製品を部品単位に分解する
- 各部品に対して材料データを紐づける
- 下位から上位へ材料データを積み上げる
この積み上げによって、最終的に製品全体の材料構成が明確になります。ここで無理に簡略化すると、後から修正が必要になるケースもあるため、最初に正しい構造を作ることが重要です。
なお、多くの利用者はWEB画面から手入力により部品表のデータを登録することになるため、構成部品点数が多い企業は特にこの部分に作業工数がかかります。
完成データの送信と承認
データが完成したら、取引先である自動車メーカー(OEM)へ送信します。送信後は、メーカー側で内容が確認され、承認または否認の判断が行われます。
一般的な流れは、次のとおりです。
- OEMへIMDSデータを提出
- 内容確認
- 問題がなければ承認
- 不備があれば否認・差戻し
否認された場合でも、理由が明示されるため、修正して再提出することが可能です。IMDS運用は一度で完結するものではなく、やり取りを重ねながら精度を高めていくプロセスであることを理解しておくと、対応しやすくなります。
OEMごとに固有のチェック要件があり、個別に確認・対応する必要があります。条件設定は取引先から受信したデータにも波及するため、担当者は固有要件を理解しておく必要があり、自社内のデータベースなどで情報共有をしておかないと、ノウハウは属人化しやすくなります。
FAQ
IMDSを初めて扱う際によくあるのが、JAPIAシートやchemSHERPAと同じものだと誤解してしまうことです。いずれも材料や化学物質に関する情報を扱うため、目的の違いが分かりにくくなりがちです。ここでは、混同が起こりやすい理由と正しい整理の考え方を解説します。
JAPIAシートとIMDSは何が違うのか?
JAPIAシートは、主に日本国内の取引で使われてきた材料・化学物質情報の提出様式です。一方、IMDSは自動車業界向けに国際的に利用されている材料データ管理システムです。
違いのポイントは、次のとおりです。
・IMDSは自動車メーカーへの提出を前提としている
・JAPIAシートは国内取引先との情報共有が主な目的
・IMDSは物質レベルまで詳細な情報が求められる
そのため、JAPIAシートを作成していても、IMDS対応が不要になるわけではありません。
IMDSだけ対応すれば十分なのか?
「IMDSを作っていれば、他の対応は不要」と考えてしまうのも、よくある誤解です。実際には、IMDSと他のツールを併用する必要があるケースも少なくありません。
併用が必要になる代表的なケースは、次のとおりです。
・自動車業界以外の取引先にも製品を供給している場合
・社内の化学物質管理や監査で別の書式が求められる場合
・業界や地域ごとに異なる規制への対応が必要な場合
IMDSは非常に重要な仕組みですが、すべての要求を一つで満たす万能ツールではありません。目的に応じて、適切なツールを使い分けることが、スムーズな運用につながります。
まとめ|IMDSは自動車ビジネスへの参入切符
IMDSは、自動車業界に関わるうえで避けて通れない仕組みです。入力作業やルールの多さに戸惑うこともありますが、その役割を正しく理解すると、IMDSは単なる負担ではなく、自動車ビジネスに参加するための前提条件であることが見えてきます。
IMDSは「単なる面倒な入力作業」ではない
IMDSは、よく「手間のかかる入力作業」として捉えられがちです。しかし本質的には、事業を継続するためのインフラとして機能しています。
IMDSが果たしている役割は、次のとおりです。
- 環境規制に適合していることの証明
- サプライチェーン全体での情報共有
- 自動車メーカーとの取引を成立させる前提条件
このようにIMDSは、自動車業界でビジネスを続けるための共通基盤であり、単なる事務作業ではありません。







