グリーン調達マイスター、初の安全衛生管理へ展開―化学物質の自律的管理とPRTR法・毒劇法対応を仕組化した先進事例―

TOYO TIRE様の会社概要とグリーン調達マイスター導入前のご状況

2023年の労働安全衛生法(以下 安衛法)の“自律的管理への移行”により、製造業では化学物質管理の対象物質が急増し、現場の負担が非常に大きくなっています。TOYO TIRE株式会社では、各拠点に分散していたSDS確認や法規制対象物質の照合作業を、本社主導で仕組み化。グリーン調達マイスターを活用して対象物質を可視化・一覧化し、安衛法への対応に加え、化学物質排出把握管理促進法(以下 PRTR法)や毒物劇物管理まで標準化しました。グリーン調達マイスターを初めて安全衛生管理に活用し、拠点の負担軽減と監査精度の向上を実現した取り組みをご紹介します。

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安衛法の改正で、化学物質管理は“次のステージ”へ

安衛法における化学物質管理は、ここ数年で大きな転換点を迎えました。従来のように、法令で定められた「特定化学物質や有機溶剤」を決められたルールで管理するのではなく、事業者が自ら危険性・有害性を把握し、必要な対策を講じる「自律的管理」へと軸足が移っています。背景にあるのは、従来型の規制だけでは労働災害を十分に減らせなかったという課題です。実際に、規制対象外の物質による災害の発生が多く、現場で使用する化学物質を事業者自身が幅広く把握し、継続的に管理することの重要性が高まっていました。

これに伴い、企業に求められる対応も大きく広がりました。安全データシート(以下 SDS)の内容を基にリスクアセスメントを実施し、その結果に応じた措置を事業者が主体的に講じることが求められています。さらに、がん原性物質、濃度基準値設定物質、皮膚等障害化学物質など、管理の観点も細分化され、単にSDSを保管するだけでは十分とは言えない状況になりました。

特に大きな影響を与えているのは、対象物質の急増です。自律的管理の対象は、2020年の約674物質から増え続け、2026年4月には約2300物質となり、さらに、2027年4月には約2500物質へと拡大予定です。TOYO TIRE株式会社でも、SDSだけで約2000種類を管理しており、そこに含まれる成分ベースで見ると膨大な数にのぼります。こうした環境下では、各拠点が“国が公表している対象物質リスト”と“SDS”を目視で突き合わせ、CAS番号を確認しながら対応を進める従来運用では、どうしても限界があります。TOYO TIRE株式会社においても、抜け漏れの防止と現場負担の軽減を両立するには、本社主導で情報を整理し、全社で共通活用できる仕組みづくりが不可欠になっていました。

TOYO TIRE株式会社 新宅様が話している姿

TOYO TIRE株式会社 環境安全推進本部 環境衛生推進部 課長 新宅 裕行様

導入のきっかけはPRTR法対応

TOYO TIRE株式会社における化学物質管理の転機となったのは、PRTR法への対応でした。2021年10月に公布され、2023年4月に施行された同法では、対象物質の見直しが行われ、従来の462物質から最終的に515物質へと拡大されています。単なる数の増加にとどまらず、対象物質の入れ替えや定義の変更も含まれており、企業としては実質的に管理内容を一から見直す必要がありました。

PRTR法は、工場などから排出される化学物質が環境へ与える影響を把握・管理するための制度です。大気や水域への排出、廃棄物としての移動量などを適切に管理し、近隣住民や自然環境への影響を把握することが求められます。

具体的には、対象物質について「年間どれだけ使用したか」を集計し、翌年に国へ報告する義務があります。例えば、対象物質を含む製品を複数回購入した場合、それらを合計して年間の取扱量を算出することが必要です。

TOYO TIRE株式会社でも、法改正の情報が出た段階から各拠点で検討が始まりました。その後、各拠点で個々に対応するのではなく、本社で対象物質を一括管理するほうが漏れなく対応できるという判断になりました。

環境対応は企業の社会的責任であると同時に、コンプライアンス上も見過ごせない重要課題です。こうした背景から、同社ではPRTR法対応を起点に、全社的な化学物質管理に取り組む必要性が高まり、システム化の検討が本格的に進められることになりました。

4万件のデータ+法令を自社で定義できる柔軟性

グリーン調達マイスターを評価した最大の理由の一つは、初期データの充実と高い柔軟性でした。TOYO TIRE株式会社では、まず「化学物質管理システム」とWeb検索するところから情報収集を開始。複数の製品を比較検討する中で、2023年12月にグリーン調達マイスターの無料トライアルを実施しました。ログイン後すぐに化学物質一覧を確認したところ、すでに4万件を超える化学物質データがあらかじめ登録されていた点に大きな価値を感じたといいます。ゼロからデータベースを構築する負担がなく、導入初期から実務に沿った検討を始められたことは、大きな安心材料になりました。

システム選定の過程では、複数のシステムを比較検討しました。他社システムは機能が網羅的で、全社的な基盤として活用するには適した製品が多い一方で、TOYO TIRE株式会社が想定していた運用とはやや方向性が異なっていました。具体的には、標準化された運用を前提とした設計であるため、現場ごとの運用に細かく合わせていくには一定の工夫が必要だと感じたといいます。

さらに、多くの製品が基幹システムとの連携を前提とした大規模な構成であったことも、今回の検討条件とは一致しませんでした。TOYO TIRE株式会社が求めていたのは、大規模な全社基盤としての導入ではなく、自部署主導でスモールスタートしながら、必要な管理を段階的に実務へ落とし込める仕組みだったためです。

こうした背景から、自社の運用に、より適した選択肢を検討していく中で評価されたのが、グリーン調達マイスターでした。同製品は、自社に必要な管理を自社で定義しながら、無理なく運用へ落とし込める柔軟性を備えており、「まさにこれがやりたかった」と感じられるものでした。加えて、クラウド型である点も大きな評価ポイントです。サーバーの構築や維持管理といった負担を抱えることなく運用を開始できるため、システム管理まで手を広げたくない現場にとって導入しやすい環境が整っていました。これらの要素が総合的に評価され、導入の決め手となりました。

グリーン調達マイスター評価ポイント

CAS番号で対象物質を一括判定

安衛法の自律的管理対応を進めるうえで、TOYO TIRE株式会社が特に効果を感じたのが、CAS番号を使った対象物質の一括判定です。従来は、各拠点がSDSと国が提供する資料を見比べながら、がん原性物質や皮膚等障害化学物質、濃度基準値設定物質などに該当するかどうかを目視で確認していました。しかし、対象物質は年々増加しており、こうした作業を手作業で続けるには限界がありました。抜け漏れのリスクも高く、現場にとって大きな負担になっていたのです。

そこで同社は、国の法規制一覧とSDSの双方に記載されているCAS番号に着目しました。独立行政法人が提供する化学物質情報システム「NITE-CHRIP」から必要な法規制データを取得し、CAS番号一覧をCSV化してグリーン調達マイスターに取り込みます。すると、対象物質に対して一括でフラグ付けができ、PRTRやがん原性物質などの該当有無をまとめて判定できるようになりました。

この仕組みにより、これまで膨大な時間を要していた目視確認から脱却し、必要な物質を効率的かつ正確に抽出できる体制が整いました。

TOYO TIRE株式会社 藤田様

TOYO TIRE株式会社 環境安全推進本部 環境衛生推進部 課長代理 藤田 順一様

Excel展開で「現場が動ける情報」に変換

TOYO TIRE株式会社では、グリーン調達マイスターに登録・整理した化学物質情報を、そのままシステム内で完結させるのではなく、各拠点が実務で使いやすいExcelに展開して活用しています。ポイントは、単なる対象物質の一覧ではなく、「その拠点が何をすべきか」が分かる形に変換していることです。

たとえば、毒物劇物に関するシートでは、どの材料にどの成分が含まれているかを一覧化し、対象となる物質だけを抽出しています。これにより、各工場は在庫管理が必要な対象をすぐに把握でき、「どの工場で何を、どれだけ管理すべきか」を明確にできます。毒物劇物は管理簿による在庫確認が欠かせず、減少があれば盗難の可能性まで視野に入れなければならないため、対象の見える化には大きな意味があります。

また、がん原性物質のシートでは、30年間の作業記録保存が必要な対象を整理し、皮膚等障害化学物質のシートでは、手袋など保護具の選定・使用が必要な対象を明確にしています。現場担当者は、自拠点に関係するシートを見るだけで、自分たちが実施すべき管理や対策を把握できます。従来のように、国が提供する資料とSDSを突き合わせながら一件ずつ読み解く必要はありません。

この仕組みによって、本社が整理した情報を、現場がそのまま行動に移せるレベルまで落とし込めるようになりました。以前は「対象物質かどうかを調べる」こと自体が大きな負担でしたが、現在は「対象が分かったうえで、必要な対応を確実に実施する」ことに現場の時間を使えるようになっています。さらに、本社と拠点が同じ一覧を見ながら会話できるため、監査でも「何が不足しているのか」を具体的に確認しやすくなりました。Excel展開は、情報共有の手段であると同時に、全社の化学物質管理を実務レベルで動かすための重要な運用基盤になっています。

TOYO TIRE株式会社の化学物質管理フロー

監査が「形式」から「実効性」へ

グリーン調達マイスター導入後、TOYO TIRE株式会社で大きく変わったのが、各拠点に対する監査のあり方です。従来の監査は、言わば「確認はするものの、最終的には相手の申告を信じるしかない」面がありました。現場で使用しているSDSは数百種類規模にのぼることもあり、その場で一つひとつ内容を確認し、対象物質の漏れまで把握するのは現実的ではありません。拠点から「対応しています」「これで全部です」と示されれば、本社側としてはそれを受け入れざるを得ない場面も少なくなかったといいます。

しかし、グリーン調達マイスターによって本社側でも対象物質の全体像を把握できるようになったことで、監査は大きく変わりました。現在は、各拠点が使用しているSDSに含まれる対象物質を一覧で把握したうえで監査に臨めるため、「この拠点には対象が100件あるはずだが、提示されているのは80件」といった確認が可能です。つまり、拠点の説明を感覚的に受け止めるのではなく、根拠をもって具体的に質問できるようになりました。監査は“形式的に話を聞く場”から、“実態を確認し改善につなげる場”へと変わったのです。

一覧で可視化された情報を前提に本社と会話することで、事前準備や是正の精度も高まっています。拠点では複数業務を兼務しており、化学物質管理に専従することは難しい状況のなか、「本社より一覧表で法的対応が必要な物質が共有されるため、対象物質の該当有無を確認する作業が削減され、対応漏れを防ぐことが可能」になりました。結果として、監査は単なるチェックではなく、各拠点の自律的な改善を後押しする機能を持つようになりました。TOYO TIRE株式会社にとって、グリーン調達マイスターは管理業務を効率化するだけでなく、全社の化学物質管理を“実効性ある運用”へ引き上げる基盤になっています。

法令対応を“現場で実行できる形”に

安衛法の改正により求められる「自律的管理」は、単なる法令遵守にとどまらず、現場で確実に実行されて初めて意味を持ちます。しかし実際には、対象物質の急増やSDS情報の複雑さにより、現場の負担が大きすぎる状況が生まれていました。TOYO TIRE株式会社では、グリーン調達マイスターを活用し、本社主導で情報を整理・体系化することで、「見える化」から「行動化」へとつなげる仕組みを構築できました。

また、化学物質の適切な管理は、工場周辺の環境保全にも直結します。大気や水質への排出量の把握や毒物劇物管理の徹底により、地域社会への影響を最小限に抑える体制が整備されました。さらに、本社と拠点が同じデータをもとに監査・対話できるようになったことで、対応のばらつきが減少し、企業としての説明責任と信頼性も向上しています。

法令対応を「負担」ではなく「仕組み」に変えることで、全社的な衛生・環境管理のレベルアップを実現しています。

導入の成果

さらなる効率化へ。自動化・連携への期待

TOYO TIRE株式会社では、グリーン調達マイスターの活用によって安衛法、PRTR法、毒物劇物管理への対応を大きく前進させました。一方で、今後に向けた期待として挙がったのが、法規制情報の自動反映です。現在は標準データベースに対し、自社でフラグ付けを行いながら管理していますが、法改正のたびに対象物質が自動で更新されれば、運用負荷はさらに下げられます。

もう一つの要望が、SDS管理との連携強化です。現状は別システムでSDSを読み込み、そのデータをグリーン調達マイスターへ取り込んでいます。この連携がよりスムーズになれば、手作業はさらに減り、更新対応の精度も高まります。法令情報とSDS情報を一元管理できる環境が整えば、化学物質管理業務全体をより効率的かつ確実に進められる――。同社はその先の姿にも、大きな可能性を感じています。

UELとのコニュニケーション

「基本的には日常的なお付き合いはほぼありません。それはむしろ良いことと思っています」とのこと。頻繁にやり取りが発生するということは、システムがうまく動かない、何か問題がある、ということになる。正常に動いているときに、わざわざ「動いています、ありがとうございます」とは連絡しません。そのため、コミュニケーションが少ないというのは、非常に良い状態だと考えています。
一方で、導入初期に発生した技術的な問い合わせに対しては、迅速かつ丁寧なサポートが提供されました。また、メルマガやWebセミナーを通じた継続的な情報提供も、最新動向の把握や周辺ソリューションの検討に役立っています。必要なときに適切につながれる関係性が、安心して運用を続けられる基盤となっています。

UEL株式会社のTOYO TIRE様担当営業:片橋が話している姿

UEL株式会社 営業統括本部 環境ENG営業G 片橋 実花

同じ課題を持つ企業へ

安衛法の自律的管理対応は、いまや一部の先進企業だけのテーマではなく、化学物質を扱う多くの製造業が直面している共通課題です。とくに現場任せの運用では、「対応しているつもりでも、本当にできているか分からない」という不安が残りやすくなります。TOYO TIRE株式会社も、まさにその課題に向き合い、本社主導で対象物質を整理・可視化し、各拠点が行動に移せる形へ落とし込みました。重要なのは、特別な体制や大規模な仕組みがなければ進められないということではなく、まず“見える状態”をつくることです。本事例は、自律的管理を実効性ある運用へ変えたい企業にとって、現実的で再現性のあるヒントとなるはずです。取材へのご協力ありがとうございました。

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